【本編・前期(第一話〜第三話)】マギモノガタリ〜森での出逢い〜

第一話:森での出逢い

Help me ミキ

「よし、今のうちなのです!」

 ミラーが部屋を出ていったのを確認すると、マナはそわそわと部屋の隅に立てかけられていた箒へと歩み寄った。

 いつもミラーが軽やかに空を飛ぶその姿を見て、ずっと羨ましく思っていたのだ。きっと、自分でもできるはず!

「えっと、またがって……」

 そっと箒に腰を下ろし、期待を込めてギュッと柄を握る。次の瞬間、ふわりと体が浮き上がった。

「やったー!!」

 驚きと興奮に満ちた笑みがマナの顔に広がる。しかし、その喜びも一瞬だった。

「ひゃぁあああああ!!?」

 箒が突然、猛スピードで飛び出し、マナの体は逆さまに! 必死でしがみつくが、重力に振り回され、髪もスカートもめちゃくちゃだ。

「わっ! ど、どこ行くのです!?」

 箒は勝手に進み、城の外へ飛び出す。眼下には青々とした木々が広がり、やがて薄暗い森が近づいてきた。

「と、止まってえぇぇぇぇぇぇ!!!」

 猛スピードで回転しながら、どんどん森へと落下していく。

「きゃああああああ!!! 誰か止めてぇぇぇ!!!」

 マナの絶叫が空に響く。

 ちょうどその時、森の中の大きな木の上に、一人の少女がいた。

 長い黒髪をたなびかせる凛々しい美少女。腰に長い剣を差している。

 彼女の名はミキ。

 ミキは突然上空からマナがものすごい勢いで落ちてくるのを目撃した。

「……は?」

 一瞬、状況を理解するのが遅れたが、すぐに体制を整える。

 瞬間、ミキは力強く枝を蹴り、宙に舞った。

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 落下するマナを抱きかかえ、そのまま器用に周囲の枝に剣を当てながら、勢いを殺していく。

 剣の刃が枝を滑るたび、速度が緩やかになる。そして、最後の一撃で剣を大地に突き立て、ミキはまるで羽のように軽やかに、地面へと降り立った。

 「ふぅ……」

 抱えた少女に目を向けると、マナはぐったりと気を失っていた。

 「……死んでないよね?」

 顔を覗き込むが、ぴくりとも動かない。あまりの恐怖にショックで気絶したようだ。

 ミキはため息をつきながら、腕の中のマナを見つめた。


ひんやりとした風が頬を撫でる。

 マナはゆっくりと目を開けた。

 視界に映ったのは、見上げるほどの大木。その根元に自分はもたれかかっていた。肩には、誰かのケープがかけられている。

「……?」

 まだ頭がぼんやりしている。確か、ミラーの箒に乗って……それで……。

 突然、ガサガサと茂みが揺れた。

 マナはビクッと肩をすくめる。そして、現れたのは——

 長い黒髪の長身。そして、その腕には……大きなイノシシ。

 マナは呆然とした。

 黒髪の少女は、あっさりとイノシシの死体を地面に投げ出す。そして、その腰に携えた剣を鞘に戻しながら、ふとマナに視線を向けた。

「やっと起きたか」

 低く落ち着いた声だった。しかし、マナの視線は彼女の顔ではなく——

 血まみれの剣に釘付けになっていた。

 「ひっ……! 殺さないでぇぇぇぇぇ!!!」

 マナは悲鳴を上げ、全力で後ずさった。

 「は?」

 少女は明らかに呆れた顔をした。

 「何を勘違いしている?」

 「だ、だって、血が! 剣が!! マナも殺されるのです!? マナは美味しくないのです!!」

 「……助けなければ、よかったかな」

 少女は心底面倒くさそうにため息をついた。

 マナはガクガク震えながらも、ちらりと彼女の顔を窺う。

 腰まである黒髪。大きな瞳は鋭く、まるで獣のような力強さを持っている。しかし、思いの外華奢で、綺麗な顔をしていた。

 「……はぁ」

 少女は地面に腰を下ろすと、適当に落ちていた枝を拾って火を起こし始めた。

 マナはまだ警戒を解けず、じりじりと距離を取る。

 「……で、誰なのです? っていうか、ここどこ!?」

 「それは私も知らない」

 「そっか……あれ?」

冷静になってきたマナの頭に、少し前の記憶が戻ってきた。確か、落ちそうになって――

 「間に合わなかったら地面に頭ぶつけて死んでたぞ」

 「……」

 マナは思わず顔を覆った。ミラーの箒なんかに乗ったのが間違いだった。改めて目の前の少女を見つめる。

 「助けてくれて、ありがとうなのです。……それで、あなたは……?」

 少女はマナを見た。

 「ミキ」

 短く名乗ると、イノシシをさばく準備を始める。

 「ミキ……。マナの名前は、マナなのです!」

 ミキから返事は返ってこなかった。

Help me サニィ

 ぱちぱちと焚き火が小さく弾ける。

 ミキは無言でイノシシを捌いていたが、ふと手を止めた。首筋をなぞるような、冷たい感覚――殺気。

ミキの表情がわずかに険しくなる。

 「……?」

 マナは訝しげにミキを見る。しかし、ミキは何も言わない。

 その直後だった。

 「グルル……」

 低く、喉を震わせるような唸り声がした。木々の向こうで、何かが大きくうごめく音。

 ミキは静かに奴を観察する。マナの背筋に冷たい汗が伝う。

 「な、なんなのです……?」

 次の瞬間、木々の隙間から、光る目がこちらを睨んだ。

 ——ドラゴン。

 鋭い爪が幹を引き裂き、分厚い鱗が月明かりを鈍く反射する。

 それは、静かに口を開いた。

 「グォオオオォォォ……」

 地鳴りのような咆哮が響く。

 「ッ……!!」

 マナの顔は青ざめ、思わず後ずさる。

 ドラゴンはそのまま、二人を見据えていた。

 ——次の瞬間、地面が震えた。

 ドラゴンが、こちらに向かって踏み込んでくる。

 「ミ、ミキ!!」

 マナが叫ぶ。

 しかし、ミキは無言でマナの手首を掴んだ。そして、走り出す。

 「え、ちょっ……!?」

 ミキはただひたすらに駆けた。木々の間をすり抜ける。

 背後から、確実に追いかけてくる音がする。巨体が地面を踏み鳴らし、木をなぎ倒しながら迫ってくる。

 ミキもマナも、ただ必死で走るしかなかった。


 息が切れる。

 どこまで走ったのか分からないが、ドラゴンはまだすぐ後ろにいた。

 ドォン!

 重い足音が響く。地面が揺れる。

 ——もう、逃げ道がない。

 木々が密集し、行き止まり。

 マナの顔から血の気が引いた。

 「……っ」

 ミキは舌打ちし、剣を抜いた。

 銀色の刃が、太陽光を浴びて鋭く光る。

 マナもゴクリと唾を飲み、決意を固めた。震える手で落ちていた木の枝を構える。

 ドラゴンの赤い目がギラリと光った。

 ——その時。

 「ドラちゃ〜ん、めっ!」

 軽い声が、頭上から響いた。

 次の瞬間——

 バシュッ!!

 突如として、見えない力がドラゴンを押さえつける。

 「グォ……?」

 ドラゴンの体がピクリとも動かない。

 ミキとマナは、驚いてその声の方を見上げた。

 すると——

 「はーい、二人とも。大丈夫だった〜?」

 ふわり、と木の枝の上に現れたのは、一人の少女。

 二つ結びにした金髪を揺らし、どこか気だるげな表情のサニィ。

 彼女はのんびりとドラゴンの頭を撫でながら、にっこり微笑んだ。

 「よしよし、暴れたらダメでしょ〜? もう、ドラちゃんったら……」

 そう言うと、サニィはドラゴンの鼻先をぺしっと叩いた。

 「ほら、帰るよ〜」

 ドラゴンは、しゅんとした様子で森の奥へと歩き去っていく。

 あまりにもあっさりした展開に、マナは目を丸くした。

 「……な、何……?」

 「びっくりした〜?」

 サニィは大きく伸びをしながら、ケラケラ笑った。

 「あ、私はサニィ。この森に住んでるの〜」

 ミキは無言でサニィを睨む。

 「……魔法か」

 サニィは肩をすくめる。

 「そ。得意技だよ〜」

 マナはまだ呆然としたまま、サニィとミキを交互に見た。

 「……助かったの、かな?」

 サニィはへらっと笑い、マナの肩をぽんぽんと叩く。

 「大丈夫だよ〜。もうドラちゃん、怒ってないから」

 マナはようやく、安堵の息をついた。

 「で、何で二人はこんなとこにいるの?」

 サニィの目が、マナとミキをじっと見つめた。


 マナは今までの流れを説明した。

 「……それで、この森に落っこちそうになったところを、ミキが助けてくれたのです」

 サニィがじっとマナを見つめる。

 「なるほどね〜」

 サニィはくすくす笑う。

 「つまり、迷子なんだね〜?」

 ふわりと微笑み、気楽な調子で言った。

 「仕方ないな〜、森の出口まで案内してあげよっか?」

 「……私は結構だ」

 即答したのは、ミキだった。彼女は警戒するようにサニィを睨んでいる。

 「あらら〜、そんなこと言っちゃうんだ」

 サニィは目を細めると、ゆっくりと近づいた。

 「私はどっちでもいいけど〜……この森、ああいうのがた〜っくさんいるんだよね〜」

 彼女が指差した先には、先ほどまで暴れていたドラゴンの足跡が残っている。

 「……あんなのがうじゃうじゃいる森で、夜も眠れないかもね〜?」

 ミキの表情が変わる。マナもゴクリと唾を飲んだ。

 「……どうする?」

 ミキはしばらくサニィを見つめていたが、やがてふう、とため息をついた。

 「……好きにしろ」

 「やった〜、決まりだね〜!」

 サニィはゆるく拍手をして、くるりと踵を返す。

 「じゃ、行こっか〜」

 ミキは不機嫌そうに歩みを始める。

 マナもサニィの後を追った。

 こうして、森を抜けるまでは三人で行動することになった。

 ——この先、沢山の波乱が巻き起こることも知らずに。

Forest Mansion

「……あれ? こんなのあったっけ〜?」

 森を進んでいた3人の目の前に、突如として現れた洋館。

 鬱蒼と茂る木々の間からひっそりと顔を覗かせるそれは、年月を経たせいか、蔦が絡まり、窓ガラスも薄汚れている。

 サニィが興味深げに首をかしげる。

 「こんな目立つ建物、今までに見たことないな〜?」

 「……」

 ミキはじっとその館を睨む。

 だが——

 「入ってみようなのです!」

 目を輝かせたマナが、二人の静止も聞かずに勢いよく駆け出した。

 サニィの制止も聞かず、マナは重々しい扉を押し開け、そのまま館の中へ飛び込んでしまった。

 バタンッ、と扉が閉まる。

 「……」

 ミキはため息をつき、腕を組んだ。

 「私は待っている」

 つまるところ、関わりたくないという意思表示だった。しかし。

 「今は一緒に行動でしょ〜?」

 サニィがまるで危機感無く、楽しげに言う。

 「ほらほら〜、行こ行こ!」

 ミキの袖を引っ張りながら、軽やかに館の扉を開くと、強引に中へと足を踏み入れた。

 「……」

 ミキは渋々ながらも、警戒を解かずに後を追う

 薄暗い館内。埃っぽい空気と、甘い香りが漂う不思議な空間だ。

 「マナちゃーん?」

 呼びかけるが、返事はない。

 マナは随分と奥へ進んでしまったのか、その姿はどこにも見えなかった。

 そのとき。聞こえてきたのは、異様な笑い声だった。

 「ふっ、ふふふ……! あははははははははっ!!」

 甲高く、抑えきれないような笑い声が、館内に響き渡る。

 ミキとサニィの足が止まった。

 「……?」

 ミキが眉をひそめる。

「……なんだろうね〜、この声」

 サニィは笑顔だったが、その目には少しばかりの警戒心が滲んでいた。

 異様なほど明るく、しかしどこか狂気じみたその声が、館の奥から響いてくる。

 「……やばいかもね〜」

 二人は顔を見合わせた。

 そして、慎重に奥へと進む。

 そこには——床にマナが転がっていた。

 「……あっははははは! ふふっ、あはははは!! ひゃうんっ……助けてなのですぅぅ!!」

 顔を真っ赤にし、涙を浮かべながら笑い転げるマナ。

 本人も止められないのか、手足をばたつかせながら必死に助けを求めていた。

 ミキは無言。

 サニィは目を丸くし——

 「こらー! ほら、立ちなよ〜!」

 そう言って、マナの腕を引っ張った。だがしかし。

 「やぁぁぁ! ふひゃっ、ひゃひゃひゃ!! 無理、無理なのですぅぅ!!」

 マナは笑い暴れ、体をくねらせる。

 手を滑らせ、バタンッと再び床に転がった。

 「うーん……これは運ぶの、無理かもね〜?」

 サニィは苦笑する。

 「……」

 ミキはマナを一瞥し——

 トンッ。

 手刀を振り下ろした。

 「っふぇ?」

 マナの動きがピタリと止まり、そのまま静かに気を失う。

 「……」

 サニィの視線を感じる。ミキは小さくため息をつくと、仕方なくマナを抱きかかえた。

 「じゃ、行こっか〜」

 サニィが軽く笑い、再び薄暗い廊下を進む。

 景色が変わり、棚には見慣れない薬品、奇妙な器具がずらりと並んでいた。

 「実験施設なのかな〜?」

 ミキは無言で周囲を見渡す。

 剥製のようなものが吊るされ、薬のようなものが煮えたぎっている。

 どこか異様な雰囲気が漂うその場所で——

 「おーほほほほ!!」

 甲高い笑い声が響いた。

 声の主は、金髪ツインテールの少女。小さな体に見合わない高めのハイヒールを履いている。

 魔女帽、ミニワンピースに身を包み、紫の手袋をはめたその手には——鏡の大きな破片。

 光を反射してきらりと光る、それは刃物のように鋭かった。

 「……」

 ミキとサニィが足を止める。

 金髪の少女は、ミキを見るなり目を細め、口元を歪めた。

 そして――突進してきた!

 「……っ!」

 ミキは即座に構えようとするが、手にはマナがいる。

 武器を抜く時間がない。ミキは素早く横へと跳ぶ。

 だが、金髪の少女は止まらない。

 鏡の破片を振りかざしながら、真っ直ぐにミキを狙って突っ込んでくる。

 ミキは小さく舌打ちすると、踵を返し、来た道を全速力で駆け戻った。

 その後ろを、金髪の少女が猛然と追う。

 短いスカートをはためかせ、高いヒールで軽やかに床を蹴りながら。

 扉を蹴破り、外へと飛び出す。

 森の木々が広がる中、ミキは素早くマナを館の門にもたれかからせた。

 「……っ」

 少女が、鏡の破片を振り上げ——

 斬りかかった!

 ミキはすかさず足を払う。

 鏡の破片が閃き、金髪の少女の体が傾く——

 ……はずだった。

 「おーほほほほ! やるじゃないの」

 少女は地面に手をつき、そのままくるりと体を回転させる。

 ワンピースの裾が翻り、軽やかに着地した。

 「……」

 ミキは迷わず剣を抜き、間合いを詰める。

 それを見て、金髪の少女は、にやっと笑った。

 「これなら、どう避けますの?」

 スカートの中から、小瓶を取り出す。

 細く、美しく、そしてどこか禍々しい、奇妙な薬品の詰まったガラス瓶。

 五つ、六つ。

 それらを、一気にミキへと投げつけた!

 ミキは即座に避けようとする。しかし。

 「(——っ!?)」

 なんと空中で、瓶が爆発した。破片とともに、怪しげな液体が霧のように飛散する。

 ミキは咄嗟にケープを翻し、身を守る。数滴がケープの裾に染み込んだが、辛うじて直撃は避けた。

 「……あら、仕留められませんでしたわ。残念ですの」

 金髪の少女が、楽しげに口元を歪めた。

 ミキは剣を構え、睨みつける。

 二人の間の空気が、ぴんと張り詰めた。

第二話:幻惑の魔女

折れた箒と説教

「ったく、ミラーは毎回こうなのです!!」

 マナが腕を組んで、ミラーをじっと睨む。あの後、マナが目覚めて、ミラーを止めたおかげで戦いが中断されたのだ。

「騒がしいね〜」

 ゆったりとした声が響いた。

 振り向くと、サニィがのんびりと洋館の扉を開けて出てきた。

 ミラーが言う。

「それで……ミキがマナを誘拐したんですの?」

「……は?」

 ミキが眉をひそめる。

 ミラーは腕を組み、ぷりぷりと怒りながら続ける。

「だって、マナが城からいなくなって……しばらく探していたら、あなたみたいな見るからに物騒な剣士と一緒にいたんですもの!!

 ミキは面倒そうに目を細める。

「……」

「マナを抱えていましたでしょう!? どう考えても誘拐犯ですわ!!

「……」

「即、賞金をかけようかと思いましたわよ!!」

「……それは迷惑だ」

 ミキがため息をつく。

 一方、ミラーは、尚もぷんすか怒っていた。

「み、ミラー! 違うのです!」

 マナが慌てて訂正する。

「マナはミキに助けてもらったのです!」

「え?」

「ミキは、落ちてきたマナを助けてくれたのです! だから、誘拐じゃないのですよ!」

 マナが力説する。

「……ふぅん?」

 ミラーは腕を組み、ちらっとミキを見た。

 ミキは無表情だ。

「……ほんとに?」

「ほんとに!」

「……う〜ん……」

 ミラーは顎に手を当ててしばし考えた後——

「……まぁ、マナがそう言うならいいですわ」

 ようやく納得したように頷いた。しかし。

「……でも、疑いが晴れたわけじゃありませんわよ?」

 にやりと、意味深な笑みを浮かべる。

 ミキがじろりと睨むが、ミラーはひるまない。

「だって、私の大事なマナを連れ去ったお方ですもの!」

「連れ去ってない」

「それを証明するには……やっぱり!」

 ミラーがスカートを翻す。

「あなたともう一度戦うしかありませんわね!!」

 ミラーがそう宣言した瞬間、再び戦いの幕が上がった。


 初めはいい勝負かと思われた。

 ミラーは軽やかに動き、時に奇抜な技で翻弄する。ミキも一切無駄のない動きで応戦し、互角の戦いを繰り広げていた。

しかし——ミキの体力は底なしだった。いつになっても息切れすら無い。ミラーは確実にバテていった。

 そろそろ勝負をかけないとマズい。ミラーはスカートの中から薬品を取り出そうとする。しかし、ミキが素早く足を伸ばし、ミラーの足を引っ掛けた。

「……っ!」

 バランスを崩したミラーは、大きくよろめく。

 このままでは倒される。

「やばっ……」

 焦ったミラーは、すぐにスカートの中から箒を取り出した。

「ここは退散ですわ!」

 しかし直後、振り下ろされたミキの剣が、ミラーの箒を真っ二つにした。

「えっ……」

 ミラーは固まった。

「ちょ、ちょっと!? 何を!? それがないと私は——!」

言い終わるよりも早く、ミキの鋭い視線が飛んでくる。

「……」

「……えっ?」

ミラーは直感した。これは、まずいやつ。


「お前は……」

ミラーは正座させられていた。

目の前では、腕を組んだミキが立っている。……ミラーに、重圧をかけながら。

「いい加減にしろ」

「だって! 強そうな方がいたら戦いたくなるじゃないの!」

「……」

「な、何か文句ありますの?」

「非常識」

「うっ……」

ミラーは珍しく口ごもる。

「……はぁ」

ミキがため息をついた。

「……礼儀というのは——」

そこからが長かった。

ミラーは途中で何度も逃げ出そうとしたが、そのたびにミキの鋭い視線に阻まれる。

マナとサニィは少し離れたところでそれを見守っていた。

「……ミキって、あんなに喋るのですね」

「私も初めて聞いた〜」

サニィが呑気に頬杖をついている。

その後、説教が終わるまで、かなりの時間がかかった——。

親友タイム

穏やかな昼下がり、一行は森の中で休憩を取っていた。

ミキは無言で剣の手入れをしている。砥石を滑らせ、刃の細かい傷を丁寧に研いでいく。すぐそばには他の武器も並んでいた。

サニィは昼食の準備中だ。簡単な野営用の鍋を使い、何やらぐつぐつと煮込んでいる。

「もうすぐできるよ〜」

鼻歌交じりに木の枝をくべながら、ゆったりした声で呟いた。

一方、マナとミラーは少し離れた場所で魔法の練習をしている。

「いいですわね、マナ! もうちょっと魔力の流れを意識して!」

「ハイなのです!」

ミラーが魔力を操り、手元に小さな鏡を作り出す。それを真似して、マナも同じように魔法を練習していた。

最初は順調だった。しかし——

「うーん……あ! もうちょっと派手にやってみますの!」

ミラーの目が輝いた。

次の瞬間、彼女の手から放たれた魔法が大きく弾け、無数の鏡の破片が飛び散った。

「わぁぁぁ!?」

「きゃっ!」

マナが慌てて身を伏せる。破片はキラキラと光りながら、あたり一面に散らばった。

「……」

ミキはちらりとそちらを見たが、何も言わずにまた剣の手入れに戻った。

サニィはかき混ぜていたスープを一旦置き、ため息をつく。

「ミラーちゃん……やってくれたね〜」

「え、えへへ……」

「皆の森だからね〜。掃除してね〜」

「は、はい……」

ミラーとマナは急いで散らばった破片を片付け始めた。


しばらくして、ようやく掃除が終わる。

「よし、終わりましたわ!」

「ふぅ……」

「ご飯、できたよ〜」

サニィが笑顔で鍋を差し出す。だが——

「その前に〜」

にこり、と笑ってミラーの前に立った。

「ミラーちゃん、マナちゃん」

「……?」

「魔法の練習をするのはいいけど〜、もう少し周りに気をつけようね〜」

「え、えっと……」

「もしミキちゃんに当たってたら、今ごろまた長〜い説教を聞くことになってたかもね〜?」

「それは……!」

ミラーはピクリと肩を震わせた。

「気をつけますの……」

「うん、いい子だね〜」

サニィは満足そうに頷き、ようやく昼食タイムとなった。

一行の平和な時間は過ぎていく。

仕返しですの

風が心地よく吹き抜ける森の湖畔。木々の隙間からこぼれる陽の光が水面に反射し、静かで穏やかな空間を作り出していた。

しかし——その平穏は長くは続かない。

「さぁ、勝負ですわ!!」

突然甲高い声が響いた。

森の広場に立つミキは、目の前のミラーをじっと見下ろす。

「……何の勝負だ」

「決まってますわ! どちらが強いのか決めるのよ!」

ミキは無言で眉を寄せた。

「断る」

「ちょっとくらい付き合ってくださってもよろしくてよ!?」

「……」

ミキは呆れ、背を向ける。しかし——ミラーの口元がにやりと歪んだ。

「……ふふっ」

次の瞬間、ミラーが怪しげな小瓶を取り出し、ミキの足元にスリップ魔法を発動させた。

「っと」

ミキの足が一瞬滑る。だが、流石の反射神経で踏ん張り、倒れずに済んだ——はずだった。

「えぇいっ!」

ミラーがその隙を逃さず、背後から思い切り押した。

「——っ!?」

バシャンと盛大に水飛沫が舞う。ミキの体は湖へと投げ出され、見事に沈んだ。

「やりましたわ!!」

ミラーが勝ち誇ったように湖を覗き込む。

水面が割れ、ミキが静かに浮かび上がってきた。そして、泳ぎながら湖の縁へと向かい、すんなりと這い上がる。

そのとき、ミラーの目が丸くなった。

ミキのケープは水を吸い、重たげに垂れている。衣服も濡れ、額から滴る水が首筋を伝い、鋭い瞳が日差しに照らされて輝く。

その姿を見た瞬間――

「な、ななななななっ!!」

ミラーは顔を赤らめ、手を組んで身をよじった。

「し、知りませんでしたわ……あなた、こんなに格好良かったなんて!!」

「……は?」

「まるで物語に出てくる孤高の騎士のようなお姿……! あぁ……!」

ミラーの瞳がキラキラと輝き、感動したように言い切った。

「超タイプですわ!」

「は?」

ミキは微妙に顔を歪めたが、ミラーはまったく聞いていなかった。

「今まで気づきませんでしたわ、こんなにも素敵な男性が目の前にいらっしゃっただなんて……! でも、運命の出会いに遅すぎるなんてことはありませんわよね!?」

「男性? いや、私は——」

ミラーは恍惚とした表情で、ミキの手を両手で握った。

ミキは顔をしかめ、無言で手を振りほどこうとする。しかし、ミラーの力は思いのほか強く、離れない。

「……離せ」

「遠慮なさらないで! 覚悟を決めましたの! 貴女も、さぁ!」

「だから違うと言っている」

ミラーはズイッと身を乗り出し、ミキの顔を覗き込む。

「見つけましたのよ、運命の王子様……!!!」

「……」

ミキはため息をつき、静かに距離を取ろうとした。しかし——

「待ってくださいまし!!!」

ミラーがどこからともなく箒を取り出し、振りかぶる。

「貴方を捕まえますわ!!」

「……はぁ」

ミキは走り出した。

ミラーはすぐに箒にまたがり、宙に浮かぶ。

「お待ちなさーい!!」

ミキは全速力で駆け抜けた。だが、飛行能力を持つミラーの方が断然有利だった。

「逃がしませんわよ!!」

仕方なく、ミキは冷静に森の地形を把握し、ふと脇の茂みに飛び込む

「……あら?」

ミラーは箒を止め、きょろきょろと辺りを見回した。

「……おっかしいですわねぇ? どこへ行きましたの?」

しかし、いくら探してもミキの姿は見えない。

「うう〜……」

しばらく空を旋回したミラーだったが、とうとう諦めて箒を降りた。

「……流石ですの、運命のお方………」

しかし、ミラーの熱は冷めていなかった。


茂みの影で、ミキは静かに息を潜めていた。

「……まったく」

ミキは濡れた服を絞りながら、静かにその場を離れた。

もう面倒ごとに巻き込まれるのは、たくさんだ。

第三話:妖精召喚

マナは妖精召喚士

空が茜色に染まり、森の中にぽつんと焚き火の灯が揺れていた。夕方のひんやりとした空気に、パチパチと爆ぜる薪の音が心地よく響く。

「それでね! マナはいつか、立派な妖精召喚士になって、たっくさんの妖精と契約するのです!」

マナは焚き火のそばに座り、大事そうに抱えた分厚い本をめくりながら熱く語っていた。

ミキは黙って剣を磨き、サニィは鍋をかき混ぜながら、マナの話を適当に聞いている。

「妖精ってすっごく神秘的で可愛いのです! 召喚できる人は限られているらしいけど、マナは絶対にできるって信じているのです!」

「ふーーーん」

サニィが適当に相槌を打つ。

「でも、そんな簡単にできるものじゃないんでしょ〜?」

「だからこそロマンがあるのです! いつか、きっと……」

マナがページをめくりながら、ワクワクした表情で本の文字を追う。

「妖精召喚の基本は……召喚者の強い願いと……妖精との波長が一致すること?」

指でなぞりながら読み進めていたそのとき——

「……あれ?」

本のページが光を帯び、ふわりと風が巻き起こった。

「えっ!? な、なになに!?何なのです!?」

マナが慌てて本を抱えるが、ページが勝手にめくれていく。

焚き火の炎が揺らぎ、ミキが剣を置いて素早く身構える。サニィも少しだけ興味を引かれたのか、鍋を火から下ろして様子を見守った。

ポンッ!!

突然、光が弾けた。

「うわぁぁぁっ!?」

マナが尻もちをつく。その目の前に、ふわっと小さな姿が現れた。

ピンクの髪をツインテールに結び、大きな赤いリボンがぴょこんと跳ねる。ナース服のようなものを身にまとい、怒ったように頬を膨らませる少女——妖精だった。

「……な、なんなのですか?」

マナが戸惑いながら尋ねると、妖精は腕を組み、プンプンと怒りながら叫んだ。

「ちょっと!! 私、今まさにチーズケーキを食べようとしてたのに——!!!」

「えっ?」

「口を開けた瞬間に光ったと思ったら、こんなとこに召喚されてるんだけどぉ!」

妖精はぷりぷりと怒りながら、くるくると宙を飛び回る。

マナは呆然としながら、本を見下ろした。

「……もしかして、妖精召喚しちゃったのです?」

「今さら気づいたの〜?」

サニィがくすくす笑う。

「……」

ミキは小さくため息をつき、また剣の手入れに戻った。

一方、マナは感動と興奮で目を輝かせる。

「すごいのです!! ついにマナも妖精召喚士に——!」

「ちょ、ちょっと待ったぁ!!!」

妖精がマナの顔にぐいっと迫る。

「私は別にアナタと契約する気なんてないよっ!」

「……えっ?」

マナの輝いていた表情が、しゅんと曇る。

「そんなぁ……」

「そんなじゃないの! こっちは突然呼び出されて、しかもチーズケーキ食べ損ねたんだから! もうほんっっっっっとにありえない!!」

「うぅぅ……」

しょんぼりするマナを横目に、サニィがくすくす笑いながら呟いた。

「これから大変そうだね〜」


しばらく大騒ぎした後、ようやくりぼんは落ち着きを取り戻した。

マナは焚き火の前で正座しながら、まだ少し気まずそうにりぼんを見つめている。

「……えっと、お名前は?」

マナがおそるおそる尋ねると、りぼんは答えてくれた。

「私はりぼんだよ! 未来の最強のお医者さん!」

「お医者さん?」

マナが不思議そうに首をかしげると、りぼんはくるりと回る。

「私達の世界ではね、怪我や病気を治せる妖精はとっても貴重なの!」

確かに、りぼんの服は小さなナース服のようなデザインだった。白を基調にした可愛らしいフリル付きの服で、ピンクの髪との相性も抜群だ。

マナは目を輝かせた。

「すごいのです! じゃあ、りぼんは治癒魔法が使えるのですか?」

「……も、もちろん! でも、タダで使う気はないからっ」

その様子を横目に、ミキは無言で剣の手入れを続け、サニィは楽しそうにスープをかき混ぜていた。

「それなら、妖精契約を——!」

マナが勢いよく言いかけた瞬間、りぼんが手をひらひらと振って制した。

「契約はしないよ」

マナの表情が固まる。

「王子が、人間とは契約しちゃダメって言ってるの。だから、しないの!」

「えええーー!」

マナがガックリと肩を落とす。

「そんな……せっかく召喚したのに……」

りぼんは腕を組み、ぷんすか怒った様子で焚き火を見つめる。

「それに、人間は敵なんだって。王子がそう言ってたもん」

「敵……?」

りぼんは真剣な表情で頷く。

「そう。王子は賢くて優しいから、間違ったことなんて言わないの。だから、私は契約なんかしないし、あなたたちを信じたりもしないんだから!」

「……」

マナは複雑な表情を浮かべながら、焚き火の炎をじっと見つめた。

――と、そのとき。

「……んん? なんや、妖精?」

突如、ミキの胸元から声が響いた。

故にユエである所以

焚き火の光に照らされたミキのペンダント——月の形をした銀の飾りが、薄ぼんやりと光っている。

りぼんは目を丸くし、ペンダントを凝視した。

「今の誰!?」

「ワイやワイや! 久しぶりに目ぇ覚めた思たら、なんや騒がしいとこにおるやんけ!」

明らかにペンダントから聞こえている。

焚き火の光を浴び、サニィはニヤリと面白そうに微笑んだ。

マナも驚きつつも興味津々に身を乗り出した。

「ミキのペンダントが喋ってるのです!」

ミキは何食わぬ顔でペンダントを手で覆い、咳払いをした。

「……気のせいだ」

「いやいや、気のせいちゃうやろ!? なんでワイを無視すんねん!」

再び声が響き渡る。ミキの顔がわずかに引きつった。

マナはペンダントを指差しながら叫ぶ。

「気のせいじゃないのです! 喋ってるのです!」

「そうや! もっとワイを大切に――」

ばきっ。

ミキは無言のまま、手でペンダントを握り潰した。

「ぎゃあああああああああああ!!???」

夜の静寂を引き裂くような、痛烈な悲鳴が響き渡る。


「ううぅ……なんでワイこんな目に遭わなあかんねん……」

ペンダントから声が聞こえる。

ミキは焚き火を見つめながら、何事もなかったかのように無言を貫いた。

マナは興味津々でペンダントを覗き込む。

「ミキのペンダントの中に、誰かいるのです!?」

りぼんも驚いて、ぴょんと飛び上がる。

「こ、これ、妖精の気配がする!」

ペンダントの声がふんっと鼻を鳴らした。

「おう、やっと気づいたか! ワイは守護妖精ユエや!」

焚き火の炎が揺れる。

マナが目を輝かせた。

「妖精!? じゃあ契約できるのです!?」

「ん? まぁ、ワイはちょっと特殊なもんでな。契約はせんけど、ミキのことを守ってるっちゅうか、見守ってるっちゅうか……」

ミキがそっと深いため息をつく。

「……」

サニィがクスクス笑いながら、ペンダントを見つめる。

「へぇ〜、ミキちゃんには妖精がついてるんだ〜?」

「ふん、まぁな! それにしても、ミキはほんまにツンケンしとるなぁ。ホンマはもっと素直になりたいんやろ? みんなと仲良くしたいんやろ?」

「……」

ミキの拳がゆっくりと握られた。

「いやぁ〜、ミキはほんまに不器用やなぁ。ツンデレやなぁ。もっと素直になればええのに!」

「……」

バキッ。

ユエ「ぎゃあああああああああ!!???」

ミキの手が再びペンダントを握り潰す音が響き渡った。

りぼんが跳び上がる。

「ひ、ひどい!!」

マナは呆気に取られたまま、「ひぇぇ……」と震えた。

サニィは笑いを堪えていた。

ペンダントのユエは、今度こそ沈黙した。

焚き火の音だけが、静かに響いていた。

狙われるマナ

とある日の森。朝から雷鳴がとどろいている。

ミキとマナは、特に気にせず昼食を作っていた。いつも主な料理担当はサニィだが、彼女は今日姉との用事があるそうで今一緒に居ない。

――バチッ!

突如、空間が弾けたような音と共に、目の前に影が降り立つ。

「よぉ、テメェがマナか?」

トゲトゲした金髪に、黒ずくめのラフな装い。耳には銀色のピアスが光っていた。その目は獲物を見つけた肉食獣のように鋭い。

「えっ、な、なんなのですっ!?」

ビックリして、お玉を持ったままマナが後ずさる。

キラソルはニヤリと笑い、指先から紫電を走らせた。バチバチと雷が弾ける。そして、一瞬で間合いを詰めた。閃光と共にマナへと襲いかかる雷撃。

「……っ!」

ミキが咄嗟に剣を抜き、マナの前に立ちはだかった。雷撃が剣に弾かれ、空間が爆ぜるような衝撃が広がる。

「チッ、邪魔しやがって……」

舌打ちしながら、ミキを睨みつける。

ミキは剣を構えたまま、静かに言った。

「……何の用件だ」

「お前に用はねぇんだよ。さっさとそのピンクの小娘を渡しな」

相手がまた手を掲げる。雷のエネルギーが溜まり、周囲の空気がビリビリと震え始めた。

「ちょ、ちょっと待ってなのです! いきなり襲ってくるなんて、ヒジョーシキ? なのです!」

「常識? そんなもん知るかよ」

彼は勢いよく地面を蹴り、再び突進した。

ミキはマナの腕を掴み、横へ跳ぶ。

マナは「うわぁぁぁ!」と叫びながら、引っ張られるまま走る。

後ろから「おらおらぁ、逃げられると思ってんのかぁ!?」と追いかけてくる声が聞こえる。

二人は洋館の中へ飛び込んだ。

重い扉を閉め、ミキがすぐに鍵を掛ける。

「はぁっ、はぁっ……!」

マナは息を切らしながらミキを見た。

「ど、どうしましょう……?」

ミキは少し考え、奥の部屋へ走った。

足音が近づいてくる――二人は物陰に身を潜め、息を殺した。

「おい、どこに行った? 隠れてもムダだぜ?」

ギィィ……と扉が開く音がした。

ミキは瞬時に剣を構え、斬りかかった!奇襲だ。

「ミキ!?」

しかし。

「遅ぇな!」

彼は笑いながら後ろへ飛び退き、指先を弾いた。

雷がほとばしり、ミキの剣へと襲いかかる。

「っ……!」

ミキは剣を回し、なんとか雷撃を弾いたが、全身に痺れが走る。

「どうした? そんなんじゃオレに勝てねーぞ?」

今度は地面に向かって雷を落とした。石畳が砕け、火花が散る。

ミキが態勢を立て直そうとしたその瞬間――

「お前しつけーんだよ。ちょっと大人しくしてろ」

相手の手がミキのケープを掴んだ。

「チッ……!」

ミキが剣を振り下ろそうとするが、

「させねぇっての!」

ドンッ!!

相手が振るった拳がミキの腹に直撃。

「ぐっ……!」

ミキは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「ミキ!」

マナが悲鳴を上げる。

「……ああ、もう見てられへんわ!」

その時、ミキのペンダント――ユエが光る。

透明な光の壁が敵とミキの間に張られる。

「っ、何だコレ……?」

「……」

ミキは息を整えながら立ち上がり、剣を構える。が、ユエは小声で言った。

「(アホか!! ミキだけならどうにか逃げられるやろ! 早く逃げんかい!」

「……」

ミキが押されている状況に焦るマナ。

ふと、自分の本が目に入った。

「そ、そうなのです!」

マナは必死にページをめくる。

「妖精! 妖精を召喚すれば……!」

テキトーなページを開く。

「ええい、来てなのです!」

強い光が辺りを包んだ。

ユエが驚いたように「お、おお?」と声を漏らす。

やがて光が収まると、そこには――

「……君が僕を呼んだのかい?」

透き通るような水色の髪、氷のような碧眼を持つ少年がフワリと舞い降りた。

――第4話へ続く。

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